第135章
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暫且不提在朧車上式神們的暗濤洶湧, 在晴明面前那些唇槍舌劍已是收斂了許多。
晴明帶著他們回到了庭院, 夜叉在見到像是長在晴明手腕上的般若又是一頓嘲諷。般若才不管呢, 他用那張可愛的臉故意朝夜叉吐了吐舌頭,粘得晴明更緊了。
晴明呼了口氣, 這麽道:“般若,你先放開我,我還有事情要做。”
般若嘟了嘟嘴, 不情不願地將晴明的手臂放了開來:“那好吧, 不過晴明大人!晚餐的時候我想坐在你的旁邊,可不可以呀?畢竟人家真的好想晴明大人你啊!”
般若蜜色的眼瞳中漾開水光明媚的請求, 幾乎讓人難以拒絕。
晴明還未答話,跟在晴明身邊的妖琴師就失手在他那張琴上劃下了重重的一音,尖銳的琴聲刺耳無比。
晴明微微皺起眉,轉頭溫聲詢問道:“怎麽了妖琴師?方才朧車的速度太快了,讓你不舒服了嗎?”
在晴明看不到的地方, 般若臉扭曲了下, 暗暗磨了磨牙根。
妖琴師聽到了晴明的問話,表情緩和了下道:“無妨, 只是有點暈罷了, 沒什麽要緊的。”
“原來如此,沒有大礙就好。”晴明點了點頭, 順勢就把手從般若的懷裏抽了出來。
萬年竹掃了眼般若不甘心的表情,再看了下表情明顯有些愉悅的妖琴師,唇角抿了抿。
“一目連, 麻煩你帶著九命貓、般若、萬年竹還有妖琴師他們先去熟悉下庭院的新環境。”晴明這麽對一目連吩咐道。
一目連點點頭,回道:“我知道了晴明大人,你先去忙吧。”他的聲音說得又輕又柔,那體貼無比的模樣讓般若在心裏咂舌。更別提被晾在一邊誰都沒怎麽搭理的夜叉了,他的臉已經黑得不行了,一副怒氣沖沖的樣子。
九命貓早就察覺到氣氛的不對勁,早早地溜到了一邊的回廊上看著這邊仿佛修羅場一樣的場面。
般若、妖琴師、夜叉、一目連,再加上個把玩著竹笛的萬年竹,他們或遠或近地圍繞著晴明,視線都落在晴明的身上,每一個都希望晴明將目光落在自己身上更久點。
九命貓舌頭舔了舔自己的爪子,再一次慶幸自己有先見之明提前脫離了戰場。那一處雖然沒有動刀動槍,但是他們眼神之間的交鋒就像是黑雲遮天時的電閃雷鳴,帶著讓人心驚肉跳的磅礴轟鳴。
雄性啊嘖嘖嘖……九命貓在心裏感慨著,並不打算趟這趟渾水。
晴明面色不變,提步就從那雄性的包圍圈中走了出來:“有什麽問題的話你們可以去詢問姑獲鳥,她會幫助你們的。那麽,我就先回房了。”
圍著晴明的式神們自然無法阻止,只好眼睜睜地看著晴明逐漸遠去的背影在回廊盡頭消失。
晴明在快要抵達自己房間時,卻發現了一個黑影正坐在他的房門口。
晴明微微挑眉,走近定睛一看,那端正坐在晴明房門口,背生黑色羽翼,不是大天狗又是誰?大天狗正閉著那雙冰藍色眸子,純白的衣擺隨風飄蕩著,那上面飄滿了花瓣和落葉,像是在此處等待了許久一樣。
晴明不合時宜地將這位威風凜凜的大妖怪,和在庭院門口等待著他回來的小白重合了。
“大天狗?你為何會在這裏?是有什麽事情要找我嗎?”晴明收斂回發散的思緒,他彎下腰,伸出手輕輕拍了拍大天狗的肩膀,溫聲詢問道。
大天狗像是如夢方醒,猛地睜開了眼睛,怔怔地看著晴明近在咫尺、面含擔憂的臉龐。
“晴明大人……!”大天狗連忙站了起來,將自己身上飄落的花葉拍落在地,理了理因為久坐而有些發皺的衣襟,朝晴明行了一禮恭謹道:“晴明大人,吾只是想在此處等候您歸來罷了,並無什麽要事。”
大天狗頓了頓,擡起那雙冰藍色的眼瞳,有些試探地問道:“莫非吾這樣做有何不妥嗎?”
“啊,並不是這樣。”晴明失笑,他的目光掃過了回廊外生長得茂盛茂密的樹叢,才將視線再度落回到大天狗的身上。
“只是你不必在此處等我的,犬神和姑獲鳥他們沒有和你說嗎?”晴明奇怪地問道。
“……”大天狗沒有說話,實際上犬神和姑獲鳥的確有告訴過他,晴明大人有要事出了庭院,而且也並不需要某位式神一直守在他的身邊。
但是大天狗知曉,在這座職責已經分工好的庭院裏,大天狗想要和晴明建立起更緊密、更信任的關系的話,只是簡單的聽從命令可做不到。
大天狗並不想要陰陽師和式神這一個簡單的關系,他想要成為晴明最信任的式神,離晴明位置最近的式神,能夠被晴明委以重任的式神,以及——大天狗也想成為庭院裏最理解晴明的式神。
不過這一個小小的私心自然無法和晴明大人明說。
大天狗在這段時間裏,早就將庭院裏的勢力分布摸了個透——當然這裏面也有部分功勞要歸功於對大天狗崇敬不已的鴉天狗就是了。
“姑獲鳥和犬神不是說,吾可以選擇自己心儀的房間嗎?吾選擇了這一塊而已。”大天狗看著晴明,俊秀的面容上露出了一抹足以讓普通人類面紅心跳的溫柔微笑。
“莫非不可以嗎?”大天狗問道。
“原來如此,難怪我說那邊的樹叢和往常不一樣呢。”晴明失笑,他輕輕地搖了搖頭,半是調笑道:“雖然不是不可以……但是讓你住在樹叢中未免太失禮了。我可不想被世人們說安倍晴明苛待他的式神呢。”
“那是世人愚昧,不懂得晴明大人的大義和美好之處!只懂得背後嚼舌根,那種無知之人連晴明的袍角都別想觸摸得到!”大天狗皺起了眉頭,背後的羽翼也因為主人的情緒變動而揚了起來,落下了幾片黑色的羽毛。
“但撇開不談,我的確不能讓大天狗你住在那裏。”晴明溫和而不容許拒絕地開口道。
“我很感謝你想要守護我的心意,不過我並不喜歡這樣,所以還是去尋找另一個更舒適的房間住下吧。好嗎,大天狗?”
大天狗抿了抿唇,感受到了一股從心底蔓延開來泛酸的挫敗感。他失落地眨了眨眼,點了點頭,聲音低沈地回覆道:“好的,晴明大人……吾知曉了。”
看著背後的黑翼都失落得拖落在地上的大天狗,晴明想了想,開口問道:“等會我要去把雪女接回庭院,你願意和我一起去嗎?”
大天狗聽聞此言,俊秀的面容猛地展開了一個笑容:“請晴明大人務必帶上吾!所有的危險吾大天狗定會為你斬落!”
大天狗信誓旦旦的模樣讓晴明忍不住翹起了唇角,晴明伸出手在大天狗那柔軟得猶如綢緞一樣的發上輕輕摸了摸:“那就多謝了。”
晴明向來不願在式神對自己的好意上潑冷水,他在回廊上朝天空看了看,算了算時間:“那麽現在該出發了,來得及的話,可以帶著雪女一起回來吃晚飯呢。”
“現在就出發嗎?那麽吾去為您準備出行的車具——”大天狗說著就像揮舞著翅膀往朧車和論入道休憩的地方飛去,卻被晴明阻止了。
“不需要它們,我們用走路就行了。”
大天狗微愕:“走路?”
“是啊。”晴明輕松地回覆道。他示意大天狗跟著自己,然後轉身走進了他的房間內。
大天狗依言照做,他還是來到庭院後第一次進入到晴明的房間內。
他四處環顧了下,發現晴明的房間和他本人一樣素雅潔凈,飾物和擺設都恰到好處,而更為註目的則是那占據了整整一面的巨大書架。那上面擺滿了各類卷軸,大天狗粗粗一看,那上面既有竹卷,也有唐紙制成的藍皮書本。
大天狗暗道一聲不愧是晴明大人,藏書可真多。
但不太了解人類世界的大天狗自然不知曉,即便是天皇的藏書閣,裏面的藏書或許還不如晴明的書庫多。
這些卷軸書籍有的是晴明從陰陽寮內摘抄副本得來的,有的是他人所贈,而還有些,則是某些居住在高天原或者是異界的神明們相送的。
晴明自然不知道大天狗心裏想著什麽,他帶著大天狗來到了被屏風隔開的另一邊,在屏風後佇立著一扇繪有白雪皚皚的紙門,晴明將手扣在門扉上,沒有怎麽用力,輕輕一拉們便應聲而開。
“嘩啦——”
隨著那扇門扉的拉開,大天狗下意識地閉上了眼睛,避開忽然出現的刺眼奪目的白光。
等到大天狗再度睜開眼睛時,撲面而來冷風揚起了他的袍角,而那雙微微瞠大的藍色眼瞳中,則倒映著眼前一片雪白的群山。
一扇門扉隔開了兩個世界,一邊是溫暖舒適書香繚繞的居房,另一邊是寒風凜冽、風雪呼嘯的皚皚雪山。
“走吧,該去找雪女了。”晴明偏頭對大天狗這麽道了一句,然後提步邁出了這扇門。
作者有話要說: 大天狗守在晴明門口,想要做什麽呢——
大天狗其實很心機的【。】
以及之前說的那篇妖琴師X晴明的,我放在這裏了,是全日文的,如果看不懂的話前幾章有渣翻。
いつも通りに博雅と都の鬼退治を終え、土埃に汚れた身體を湯あみで清め、後の対策を酒を交えて博雅と話していれば夜もすっかり更けていた。程よく酔った所で博雅が立ち上がり、明日も頼まれている鬼退治に備えて寢ると言う。最近はヤマタノオロチのせいで増幅する悪鬼のせいで連日の疲れが溜まっていた私は引き留める事もなく、酒盛りの片付けは式に任せ、博雅の後に続いた。
庭園が伺える廊下を音もなく歩く。
先日までは幽玄を體現したかのように見事だった庭園はヤマタノオロチの騒動で所々傷跡を殘しており、自慢の庭園だったが故に殘念でならない。だが、都の事や今の狀況を考えれば庭園の傷など考えている暇もなく、黒晴明の真意も探れない今、餘所見をする餘裕すらなかった。かつては縁側で座っていた彼女の姿も今はない。私の知らない所で世界は少しずつ狂っていく。神楽と共に犬神に掛けられた冤罪を解きに行ったことが今ではすっかり思い出の中だ。
(過去に耽るのは連日の疲れが溜まっているのかもしれないな……)
內心で自嘲しながら廊下を進めば、不意に、微かに琴の音が耳に屆いた。
視線を巡らせど弾いている主の姿はないが、音が出る方は大體分かる。
僅かに聞こえてくる端々でも奏者の手腕は窺え、嫌がられる事は覚悟で音が鳴る方へ足を向けた。
「妖琴師、か」
かくして、白い著物に身を包んだ彼はいた。樹皮が所々剝げてしまった桜の巨木の根元に座り込み、目を閉じて琴を弾いている姿こそ音の正體だろう。姿が見えるギリギリの位置で足を止め、なるべく呼吸さえ殺してその音に耳を傾ける。靜寂を好む彼の鬼は少しの邪念も許さず、興が逸れて失うにはこの音は惜しい。相手は私が來ている事には気づいているだろうが、弾き手を止めない。まだ、許されている距離である。
人を狂わせる音の持ち主である妖琴師が來たのはついこないだの事だ。
都の探索で鬼退治に勤しんでいれば、突如として現れた荷を背負った紙人形が落としていった霊符で偶然呼べたのが彼だった。呼んだすぐに「煩いぞ」と言われ、話す間もなく「このような喧しい場所に呼ぶなど…」と不満を言われて去ってしまい、私自身も依頼でてんてこ舞いになっていたのでこうして姿を見るのも久しぶりだった。一度偶然見かけた時には、近寄った小白と神楽が純粋に賛辭を呈していた姿もあったが、煩わしそうに眉を潛めていた所を見るに相當気難しいのだろう。
餘韻を殘して、一曲が去る。
本來ならばすぐに立ち去った方が良いのかもしれないが、この浮世離れした想いをすぐに手放すのは惜しい。目を閉じて、そっと浸っていればいつの間にそこにいたのだろうか。目を開ければ白い著物が目に入り、私は僅かに目を見開く。
「いつまでそうしているつもりだ」
低い聲音で問われ、暫くしたのちに口を開く。
「なに、あまりに見事なものだったのでな」
「ほう。君にあの調べが理解出來たとでも?」
挑発的な臺詞は地なのか、それともハッタリか。私は目を細め、持っていた扇子で手を叩いた。
「人を狂わすというその噂、確かに納得せざる得なかった」
純粋に賛辭を込めて言うが、気難しい彼はスッと冷めた目つきで私を見やる。興ざめしたと言わんばかりの表情で私を見下ろす。
「やはり、到底出來ていない。所詮はその程度というものか」
言うや否や、彼は重たい琴を物ともせず踵を返し、これ以上はないと暗に告げている。
「心労が募った心で私の調べが理解できると?」
「なるほど。それは失禮な事を言った。では、明日は純粋にその音を楽しむ為にここに來よう」
「ふん。口先だけで出來るとは到底思えないがな」
どうやら気休めに聴いていたのが気に障ったらしい。音律の道を極めた者にとって、何かを紛らわせるために聴かれたのであっては無粋にしかならないのだろう。失禮を詫びるように彼が立ち去るまでその場でじっとしていれば、彼は一切こちらに振り返る事もなく立ち去って行った。
次の夜はいるかどうかも分からない妖琴師の琴の音を聴く為だけに桜の巨木の元へ訪れた。約束も交わしていなければ、気難しい彼なので來るどうかもわからない。期待半分に訪れた場所に、かくして妖琴師はいた。前の夜と同じ位置に座し、私も昨日と同じ位置に佇む。息を殺して、世界が妖琴師の奏でる音だけになったかのような錯覚に囚われ、目も眩むような時間に浸る。その時だけは何もかもを忘れて、じっと彼の音だけに身を任せた。そうして餘韻に浸っていればいつの間にか妖琴師の姿はなく、私は誰もいない桜の木に向かって「お見事」と笑みを向ける。
そんな夜が連日続き、最近はあれほど感じていた疲れも感じなくなっていた。
相変わらず蔓延る悪鬼が絶える事はないが、夜にあの音を聴くだけでその日にあった出來事がぼんやりとどうでも良くなってしまうのだ。たとえ、その日の依頼がどのようにキツいものであったとしても、妖琴師の琴を聴けば彼の音しか頭に入って來なくなる。
ある日、程よく一軍が育ってきた事もあって育成途中の二軍をメインに探索に出ていると何やら神楽が心配そうな顔で私の袖を引っ張ってくる。
「どうしたの?晴明。どこか具合でも悪いの?」
「いや、そういうわけではないが……」
「最近、ぼんやりとしている事が多いからちょっと心配。本當に大丈夫?」
上目遣いに見られ、私は安心させるように神楽の頭を撫でてやる。言われてみれば、最近は鬼退治の途中であろうと意識が集中しきれていない時があり、博雅には「手ぇ抜いてんじゃねぇぞ」と小言を言われたのもあった。
「すまない、心配をかけた」
そう言えば、神楽は少しだけ安心したように笑ってくれる。遊びではないのだ。ここはきちんと集中しなければならないだろう。そう意気込んでいると、先程まで悪鬼と戦っていたはずの以津真天がいつもの淡泊な表情でこちらに近寄って來る。
「彼の禦魂、なにを付けたの?」
「何か問題でもあったのか?」
「いいえ。でも、私のものとは違うから。敵が自分の味方を攻撃しているのがおかしくて」
以津真天が向けた視線の先に自身も視線を向ければ、そこには夜に見慣れた琴を弾く姿がある。妖琴師の音を聴いた途端に悪鬼たちは頭をグラグラと揺らし、あまつさえ味方のはずの悪鬼に猛威を振るっている姿がある。
「あぁ、たまには違ったものを與えてみるのも良いと思ってな。彼には魍妖を與えてみたんだ」
「そう」
「なかなか、あれはえげつないな」
苦笑交じりに言えば、以津真天はそれ以上何も言わなかった。
連日連夜桜の木の下へ通い続け、博雅からの酒盛りの誘いもそっちのけだったのは事実だ。加えて、夜のほとんどは妖琴師の元へ訪れているようになり、日を重ねる毎に時間が伸びている気がする。
「おい、晴明!最近のお前の腑抜け具合はどうにかならないのか!」
「……そう言われてもな」
「仕事の最中でも気を抜いたようにぼんやりしやがって。そんな様子じゃ、いつか鬼に食われるぞ」
「そのような失態をするわけがないだろう。……だが、忠告感謝する」
不機嫌そうな博雅に言われた事には覚えがあった。前までは都の為に盡力を盡くす事だけを天命にして動いていたというのに、今では夜を待つ事ばかりを気にしている節があった。黒清明の事も忘れかけ、偶然見つけた大天狗の羽根で博雅が騒いでいようと、それが何なのか一瞬思い出せないくらいである。原因と言えば、妖琴師と過ごす夜しか思い付かず、もう桜の木に行くのはやめようと心に決める。
だと言うのに、何故自分は今ここにいるのか。
気づいたらいつものように桜の木の下に來ており、目の前には琴を構える妖琴師の姿があった。
我に返ったのなら踵を返すべきだろう。そう思い、足を動かせば不機嫌そうな聲が引き止める。
「何処へ行くつもりだ」
前までは「早く去れ」と言っていた口が言う言葉には到底思えない。
「明日は早いのでな。今日は早々に退散するつもりだ」
「ほう。ここまで來ておいて今更そう言うのか」
「元々來るつもりがなかった。何故今ここに自分がいるのかも不思議だ」
素直にそう言えば、妖琴師は目を細めて笑う。
「ならば、早く去るが良い。囀る蟲に聴かせる音はここにはない」
「手厳しいな。では、そうしよう。……あぁ、お前には申し訳ないが、暫くはここには來ないつもりだ」
有言実行をもとにキッパリ宣言すれば、彼は何故かおかしそうに笑う。
「いいや、君は來るさ。私が頼まずとも、君は來るだろう。明日の君は黙ってそこに佇み、自分の愚かさに嘆く事になる」
「……」
「どうした?去るのではなかったのか?何故いつまでもそこにいる」
無言で佇めば、嘲笑混じりに言われてハッと我に返る。暫くはここには來ないと心に決めながら、久しぶりに何の子守唄もないままに寢所に潛った。しかしながら、朝が來るまで目は覚めたままで、意識はハッキリとしているものの、身體の疲労は昨日までが噓のように溜まっていた。重たい身體を引きずりながら、博雅と神楽を連れて都の鬼退治へと出向く。以津真天に二軍の引率を頼み、自身は術を使って周囲を探る。そんな中、不意に袖を引っ張られ、私は背後を振り返った。
「晴明、今日は博雅に任せて帰った方が良いと思うの」
「神楽……私は」
「式達も晴明が體調が悪い事を見抜いてる。そんな狀態で戦っていたら、怪我をしてしまうかもしれないでしょ?」
そう言われて式達に向ければ、戦いながらも以津真天が靜かな目でこちらを見ているのが分かった。見抜かれているというのは本當らしい。隣にいる妖琴師は一切こちらを振り返らない。
「……すまない。今日は先に帰らせて貰うとしよう」
「うん。そうして」
不意に、妖琴師の琴の音が聞こえてくる。音を聴いた混亂した悪鬼は味方を傷つけながら、以津真天が最期のトドメを打っている姿があった。そんな事よりも、先程微かに聞こえた音の方が気になって仕方がない。これではいけないとかぶりを振り、博雅に事情を話にいく。
しかしどうしてか、先に帰って寢所で寢ていたはずなのに、私はいつの間にかあの桜の木の下にいた。まだ晝間なので妖琴師の姿はない。そこにホッとしながら、早く去ろうとするのに足が全く言う事をきかなかった。鉛にでもなったかのようにその場に佇み、ぼんやりと桜の木を見上げる。
「――だから言っただろう?君は來ると」
背後から聞こえてきた馴染みある聲に私は振り返らない。否、振り返れなかった。
「そこに跪いて乞うが良い。聴きたいのだろう?私の調べを」
それまで動かなかった足はまるで噓のように動いた。言われた通りに膝を折り、桜の木を見つめたまま息を殺してあの音が奏でられるのを待っている。
「聴かせてやろう、思う存分。今度は立ち去るなどと言えぬように、その魂に刻んでやる」
いつもの位置に、妖琴師が座る。優雅に袖を翻し、見せつけるように琴を構えて。僅かに見えた禦魂の発動に、私は息を飲むしかない。
「ほら、近くに寄れ」
聞いてはならない。行ってはならない。そう思うのに、身體は自然と前に進む。
人を狂わせる音律の持ち主。それに加えて、人を狂わせる効果のある禦魂を混ぜれば、一體どれほどの効果となるだろうか。それを今から味わうのだと思うと、ゾッとした。
「捕まえた」
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晴明帶著他們回到了庭院, 夜叉在見到像是長在晴明手腕上的般若又是一頓嘲諷。般若才不管呢, 他用那張可愛的臉故意朝夜叉吐了吐舌頭,粘得晴明更緊了。
晴明呼了口氣, 這麽道:“般若,你先放開我,我還有事情要做。”
般若嘟了嘟嘴, 不情不願地將晴明的手臂放了開來:“那好吧, 不過晴明大人!晚餐的時候我想坐在你的旁邊,可不可以呀?畢竟人家真的好想晴明大人你啊!”
般若蜜色的眼瞳中漾開水光明媚的請求, 幾乎讓人難以拒絕。
晴明還未答話,跟在晴明身邊的妖琴師就失手在他那張琴上劃下了重重的一音,尖銳的琴聲刺耳無比。
晴明微微皺起眉,轉頭溫聲詢問道:“怎麽了妖琴師?方才朧車的速度太快了,讓你不舒服了嗎?”
在晴明看不到的地方, 般若臉扭曲了下, 暗暗磨了磨牙根。
妖琴師聽到了晴明的問話,表情緩和了下道:“無妨, 只是有點暈罷了, 沒什麽要緊的。”
“原來如此,沒有大礙就好。”晴明點了點頭, 順勢就把手從般若的懷裏抽了出來。
萬年竹掃了眼般若不甘心的表情,再看了下表情明顯有些愉悅的妖琴師,唇角抿了抿。
“一目連, 麻煩你帶著九命貓、般若、萬年竹還有妖琴師他們先去熟悉下庭院的新環境。”晴明這麽對一目連吩咐道。
一目連點點頭,回道:“我知道了晴明大人,你先去忙吧。”他的聲音說得又輕又柔,那體貼無比的模樣讓般若在心裏咂舌。更別提被晾在一邊誰都沒怎麽搭理的夜叉了,他的臉已經黑得不行了,一副怒氣沖沖的樣子。
九命貓早就察覺到氣氛的不對勁,早早地溜到了一邊的回廊上看著這邊仿佛修羅場一樣的場面。
般若、妖琴師、夜叉、一目連,再加上個把玩著竹笛的萬年竹,他們或遠或近地圍繞著晴明,視線都落在晴明的身上,每一個都希望晴明將目光落在自己身上更久點。
九命貓舌頭舔了舔自己的爪子,再一次慶幸自己有先見之明提前脫離了戰場。那一處雖然沒有動刀動槍,但是他們眼神之間的交鋒就像是黑雲遮天時的電閃雷鳴,帶著讓人心驚肉跳的磅礴轟鳴。
雄性啊嘖嘖嘖……九命貓在心裏感慨著,並不打算趟這趟渾水。
晴明面色不變,提步就從那雄性的包圍圈中走了出來:“有什麽問題的話你們可以去詢問姑獲鳥,她會幫助你們的。那麽,我就先回房了。”
圍著晴明的式神們自然無法阻止,只好眼睜睜地看著晴明逐漸遠去的背影在回廊盡頭消失。
晴明在快要抵達自己房間時,卻發現了一個黑影正坐在他的房門口。
晴明微微挑眉,走近定睛一看,那端正坐在晴明房門口,背生黑色羽翼,不是大天狗又是誰?大天狗正閉著那雙冰藍色眸子,純白的衣擺隨風飄蕩著,那上面飄滿了花瓣和落葉,像是在此處等待了許久一樣。
晴明不合時宜地將這位威風凜凜的大妖怪,和在庭院門口等待著他回來的小白重合了。
“大天狗?你為何會在這裏?是有什麽事情要找我嗎?”晴明收斂回發散的思緒,他彎下腰,伸出手輕輕拍了拍大天狗的肩膀,溫聲詢問道。
大天狗像是如夢方醒,猛地睜開了眼睛,怔怔地看著晴明近在咫尺、面含擔憂的臉龐。
“晴明大人……!”大天狗連忙站了起來,將自己身上飄落的花葉拍落在地,理了理因為久坐而有些發皺的衣襟,朝晴明行了一禮恭謹道:“晴明大人,吾只是想在此處等候您歸來罷了,並無什麽要事。”
大天狗頓了頓,擡起那雙冰藍色的眼瞳,有些試探地問道:“莫非吾這樣做有何不妥嗎?”
“啊,並不是這樣。”晴明失笑,他的目光掃過了回廊外生長得茂盛茂密的樹叢,才將視線再度落回到大天狗的身上。
“只是你不必在此處等我的,犬神和姑獲鳥他們沒有和你說嗎?”晴明奇怪地問道。
“……”大天狗沒有說話,實際上犬神和姑獲鳥的確有告訴過他,晴明大人有要事出了庭院,而且也並不需要某位式神一直守在他的身邊。
但是大天狗知曉,在這座職責已經分工好的庭院裏,大天狗想要和晴明建立起更緊密、更信任的關系的話,只是簡單的聽從命令可做不到。
大天狗並不想要陰陽師和式神這一個簡單的關系,他想要成為晴明最信任的式神,離晴明位置最近的式神,能夠被晴明委以重任的式神,以及——大天狗也想成為庭院裏最理解晴明的式神。
不過這一個小小的私心自然無法和晴明大人明說。
大天狗在這段時間裏,早就將庭院裏的勢力分布摸了個透——當然這裏面也有部分功勞要歸功於對大天狗崇敬不已的鴉天狗就是了。
“姑獲鳥和犬神不是說,吾可以選擇自己心儀的房間嗎?吾選擇了這一塊而已。”大天狗看著晴明,俊秀的面容上露出了一抹足以讓普通人類面紅心跳的溫柔微笑。
“莫非不可以嗎?”大天狗問道。
“原來如此,難怪我說那邊的樹叢和往常不一樣呢。”晴明失笑,他輕輕地搖了搖頭,半是調笑道:“雖然不是不可以……但是讓你住在樹叢中未免太失禮了。我可不想被世人們說安倍晴明苛待他的式神呢。”
“那是世人愚昧,不懂得晴明大人的大義和美好之處!只懂得背後嚼舌根,那種無知之人連晴明的袍角都別想觸摸得到!”大天狗皺起了眉頭,背後的羽翼也因為主人的情緒變動而揚了起來,落下了幾片黑色的羽毛。
“但撇開不談,我的確不能讓大天狗你住在那裏。”晴明溫和而不容許拒絕地開口道。
“我很感謝你想要守護我的心意,不過我並不喜歡這樣,所以還是去尋找另一個更舒適的房間住下吧。好嗎,大天狗?”
大天狗抿了抿唇,感受到了一股從心底蔓延開來泛酸的挫敗感。他失落地眨了眨眼,點了點頭,聲音低沈地回覆道:“好的,晴明大人……吾知曉了。”
看著背後的黑翼都失落得拖落在地上的大天狗,晴明想了想,開口問道:“等會我要去把雪女接回庭院,你願意和我一起去嗎?”
大天狗聽聞此言,俊秀的面容猛地展開了一個笑容:“請晴明大人務必帶上吾!所有的危險吾大天狗定會為你斬落!”
大天狗信誓旦旦的模樣讓晴明忍不住翹起了唇角,晴明伸出手在大天狗那柔軟得猶如綢緞一樣的發上輕輕摸了摸:“那就多謝了。”
晴明向來不願在式神對自己的好意上潑冷水,他在回廊上朝天空看了看,算了算時間:“那麽現在該出發了,來得及的話,可以帶著雪女一起回來吃晚飯呢。”
“現在就出發嗎?那麽吾去為您準備出行的車具——”大天狗說著就像揮舞著翅膀往朧車和論入道休憩的地方飛去,卻被晴明阻止了。
“不需要它們,我們用走路就行了。”
大天狗微愕:“走路?”
“是啊。”晴明輕松地回覆道。他示意大天狗跟著自己,然後轉身走進了他的房間內。
大天狗依言照做,他還是來到庭院後第一次進入到晴明的房間內。
他四處環顧了下,發現晴明的房間和他本人一樣素雅潔凈,飾物和擺設都恰到好處,而更為註目的則是那占據了整整一面的巨大書架。那上面擺滿了各類卷軸,大天狗粗粗一看,那上面既有竹卷,也有唐紙制成的藍皮書本。
大天狗暗道一聲不愧是晴明大人,藏書可真多。
但不太了解人類世界的大天狗自然不知曉,即便是天皇的藏書閣,裏面的藏書或許還不如晴明的書庫多。
這些卷軸書籍有的是晴明從陰陽寮內摘抄副本得來的,有的是他人所贈,而還有些,則是某些居住在高天原或者是異界的神明們相送的。
晴明自然不知道大天狗心裏想著什麽,他帶著大天狗來到了被屏風隔開的另一邊,在屏風後佇立著一扇繪有白雪皚皚的紙門,晴明將手扣在門扉上,沒有怎麽用力,輕輕一拉們便應聲而開。
“嘩啦——”
隨著那扇門扉的拉開,大天狗下意識地閉上了眼睛,避開忽然出現的刺眼奪目的白光。
等到大天狗再度睜開眼睛時,撲面而來冷風揚起了他的袍角,而那雙微微瞠大的藍色眼瞳中,則倒映著眼前一片雪白的群山。
一扇門扉隔開了兩個世界,一邊是溫暖舒適書香繚繞的居房,另一邊是寒風凜冽、風雪呼嘯的皚皚雪山。
“走吧,該去找雪女了。”晴明偏頭對大天狗這麽道了一句,然後提步邁出了這扇門。
作者有話要說: 大天狗守在晴明門口,想要做什麽呢——
大天狗其實很心機的【。】
以及之前說的那篇妖琴師X晴明的,我放在這裏了,是全日文的,如果看不懂的話前幾章有渣翻。
いつも通りに博雅と都の鬼退治を終え、土埃に汚れた身體を湯あみで清め、後の対策を酒を交えて博雅と話していれば夜もすっかり更けていた。程よく酔った所で博雅が立ち上がり、明日も頼まれている鬼退治に備えて寢ると言う。最近はヤマタノオロチのせいで増幅する悪鬼のせいで連日の疲れが溜まっていた私は引き留める事もなく、酒盛りの片付けは式に任せ、博雅の後に続いた。
庭園が伺える廊下を音もなく歩く。
先日までは幽玄を體現したかのように見事だった庭園はヤマタノオロチの騒動で所々傷跡を殘しており、自慢の庭園だったが故に殘念でならない。だが、都の事や今の狀況を考えれば庭園の傷など考えている暇もなく、黒晴明の真意も探れない今、餘所見をする餘裕すらなかった。かつては縁側で座っていた彼女の姿も今はない。私の知らない所で世界は少しずつ狂っていく。神楽と共に犬神に掛けられた冤罪を解きに行ったことが今ではすっかり思い出の中だ。
(過去に耽るのは連日の疲れが溜まっているのかもしれないな……)
內心で自嘲しながら廊下を進めば、不意に、微かに琴の音が耳に屆いた。
視線を巡らせど弾いている主の姿はないが、音が出る方は大體分かる。
僅かに聞こえてくる端々でも奏者の手腕は窺え、嫌がられる事は覚悟で音が鳴る方へ足を向けた。
「妖琴師、か」
かくして、白い著物に身を包んだ彼はいた。樹皮が所々剝げてしまった桜の巨木の根元に座り込み、目を閉じて琴を弾いている姿こそ音の正體だろう。姿が見えるギリギリの位置で足を止め、なるべく呼吸さえ殺してその音に耳を傾ける。靜寂を好む彼の鬼は少しの邪念も許さず、興が逸れて失うにはこの音は惜しい。相手は私が來ている事には気づいているだろうが、弾き手を止めない。まだ、許されている距離である。
人を狂わせる音の持ち主である妖琴師が來たのはついこないだの事だ。
都の探索で鬼退治に勤しんでいれば、突如として現れた荷を背負った紙人形が落としていった霊符で偶然呼べたのが彼だった。呼んだすぐに「煩いぞ」と言われ、話す間もなく「このような喧しい場所に呼ぶなど…」と不満を言われて去ってしまい、私自身も依頼でてんてこ舞いになっていたのでこうして姿を見るのも久しぶりだった。一度偶然見かけた時には、近寄った小白と神楽が純粋に賛辭を呈していた姿もあったが、煩わしそうに眉を潛めていた所を見るに相當気難しいのだろう。
餘韻を殘して、一曲が去る。
本來ならばすぐに立ち去った方が良いのかもしれないが、この浮世離れした想いをすぐに手放すのは惜しい。目を閉じて、そっと浸っていればいつの間にそこにいたのだろうか。目を開ければ白い著物が目に入り、私は僅かに目を見開く。
「いつまでそうしているつもりだ」
低い聲音で問われ、暫くしたのちに口を開く。
「なに、あまりに見事なものだったのでな」
「ほう。君にあの調べが理解出來たとでも?」
挑発的な臺詞は地なのか、それともハッタリか。私は目を細め、持っていた扇子で手を叩いた。
「人を狂わすというその噂、確かに納得せざる得なかった」
純粋に賛辭を込めて言うが、気難しい彼はスッと冷めた目つきで私を見やる。興ざめしたと言わんばかりの表情で私を見下ろす。
「やはり、到底出來ていない。所詮はその程度というものか」
言うや否や、彼は重たい琴を物ともせず踵を返し、これ以上はないと暗に告げている。
「心労が募った心で私の調べが理解できると?」
「なるほど。それは失禮な事を言った。では、明日は純粋にその音を楽しむ為にここに來よう」
「ふん。口先だけで出來るとは到底思えないがな」
どうやら気休めに聴いていたのが気に障ったらしい。音律の道を極めた者にとって、何かを紛らわせるために聴かれたのであっては無粋にしかならないのだろう。失禮を詫びるように彼が立ち去るまでその場でじっとしていれば、彼は一切こちらに振り返る事もなく立ち去って行った。
次の夜はいるかどうかも分からない妖琴師の琴の音を聴く為だけに桜の巨木の元へ訪れた。約束も交わしていなければ、気難しい彼なので來るどうかもわからない。期待半分に訪れた場所に、かくして妖琴師はいた。前の夜と同じ位置に座し、私も昨日と同じ位置に佇む。息を殺して、世界が妖琴師の奏でる音だけになったかのような錯覚に囚われ、目も眩むような時間に浸る。その時だけは何もかもを忘れて、じっと彼の音だけに身を任せた。そうして餘韻に浸っていればいつの間にか妖琴師の姿はなく、私は誰もいない桜の木に向かって「お見事」と笑みを向ける。
そんな夜が連日続き、最近はあれほど感じていた疲れも感じなくなっていた。
相変わらず蔓延る悪鬼が絶える事はないが、夜にあの音を聴くだけでその日にあった出來事がぼんやりとどうでも良くなってしまうのだ。たとえ、その日の依頼がどのようにキツいものであったとしても、妖琴師の琴を聴けば彼の音しか頭に入って來なくなる。
ある日、程よく一軍が育ってきた事もあって育成途中の二軍をメインに探索に出ていると何やら神楽が心配そうな顔で私の袖を引っ張ってくる。
「どうしたの?晴明。どこか具合でも悪いの?」
「いや、そういうわけではないが……」
「最近、ぼんやりとしている事が多いからちょっと心配。本當に大丈夫?」
上目遣いに見られ、私は安心させるように神楽の頭を撫でてやる。言われてみれば、最近は鬼退治の途中であろうと意識が集中しきれていない時があり、博雅には「手ぇ抜いてんじゃねぇぞ」と小言を言われたのもあった。
「すまない、心配をかけた」
そう言えば、神楽は少しだけ安心したように笑ってくれる。遊びではないのだ。ここはきちんと集中しなければならないだろう。そう意気込んでいると、先程まで悪鬼と戦っていたはずの以津真天がいつもの淡泊な表情でこちらに近寄って來る。
「彼の禦魂、なにを付けたの?」
「何か問題でもあったのか?」
「いいえ。でも、私のものとは違うから。敵が自分の味方を攻撃しているのがおかしくて」
以津真天が向けた視線の先に自身も視線を向ければ、そこには夜に見慣れた琴を弾く姿がある。妖琴師の音を聴いた途端に悪鬼たちは頭をグラグラと揺らし、あまつさえ味方のはずの悪鬼に猛威を振るっている姿がある。
「あぁ、たまには違ったものを與えてみるのも良いと思ってな。彼には魍妖を與えてみたんだ」
「そう」
「なかなか、あれはえげつないな」
苦笑交じりに言えば、以津真天はそれ以上何も言わなかった。
連日連夜桜の木の下へ通い続け、博雅からの酒盛りの誘いもそっちのけだったのは事実だ。加えて、夜のほとんどは妖琴師の元へ訪れているようになり、日を重ねる毎に時間が伸びている気がする。
「おい、晴明!最近のお前の腑抜け具合はどうにかならないのか!」
「……そう言われてもな」
「仕事の最中でも気を抜いたようにぼんやりしやがって。そんな様子じゃ、いつか鬼に食われるぞ」
「そのような失態をするわけがないだろう。……だが、忠告感謝する」
不機嫌そうな博雅に言われた事には覚えがあった。前までは都の為に盡力を盡くす事だけを天命にして動いていたというのに、今では夜を待つ事ばかりを気にしている節があった。黒清明の事も忘れかけ、偶然見つけた大天狗の羽根で博雅が騒いでいようと、それが何なのか一瞬思い出せないくらいである。原因と言えば、妖琴師と過ごす夜しか思い付かず、もう桜の木に行くのはやめようと心に決める。
だと言うのに、何故自分は今ここにいるのか。
気づいたらいつものように桜の木の下に來ており、目の前には琴を構える妖琴師の姿があった。
我に返ったのなら踵を返すべきだろう。そう思い、足を動かせば不機嫌そうな聲が引き止める。
「何処へ行くつもりだ」
前までは「早く去れ」と言っていた口が言う言葉には到底思えない。
「明日は早いのでな。今日は早々に退散するつもりだ」
「ほう。ここまで來ておいて今更そう言うのか」
「元々來るつもりがなかった。何故今ここに自分がいるのかも不思議だ」
素直にそう言えば、妖琴師は目を細めて笑う。
「ならば、早く去るが良い。囀る蟲に聴かせる音はここにはない」
「手厳しいな。では、そうしよう。……あぁ、お前には申し訳ないが、暫くはここには來ないつもりだ」
有言実行をもとにキッパリ宣言すれば、彼は何故かおかしそうに笑う。
「いいや、君は來るさ。私が頼まずとも、君は來るだろう。明日の君は黙ってそこに佇み、自分の愚かさに嘆く事になる」
「……」
「どうした?去るのではなかったのか?何故いつまでもそこにいる」
無言で佇めば、嘲笑混じりに言われてハッと我に返る。暫くはここには來ないと心に決めながら、久しぶりに何の子守唄もないままに寢所に潛った。しかしながら、朝が來るまで目は覚めたままで、意識はハッキリとしているものの、身體の疲労は昨日までが噓のように溜まっていた。重たい身體を引きずりながら、博雅と神楽を連れて都の鬼退治へと出向く。以津真天に二軍の引率を頼み、自身は術を使って周囲を探る。そんな中、不意に袖を引っ張られ、私は背後を振り返った。
「晴明、今日は博雅に任せて帰った方が良いと思うの」
「神楽……私は」
「式達も晴明が體調が悪い事を見抜いてる。そんな狀態で戦っていたら、怪我をしてしまうかもしれないでしょ?」
そう言われて式達に向ければ、戦いながらも以津真天が靜かな目でこちらを見ているのが分かった。見抜かれているというのは本當らしい。隣にいる妖琴師は一切こちらを振り返らない。
「……すまない。今日は先に帰らせて貰うとしよう」
「うん。そうして」
不意に、妖琴師の琴の音が聞こえてくる。音を聴いた混亂した悪鬼は味方を傷つけながら、以津真天が最期のトドメを打っている姿があった。そんな事よりも、先程微かに聞こえた音の方が気になって仕方がない。これではいけないとかぶりを振り、博雅に事情を話にいく。
しかしどうしてか、先に帰って寢所で寢ていたはずなのに、私はいつの間にかあの桜の木の下にいた。まだ晝間なので妖琴師の姿はない。そこにホッとしながら、早く去ろうとするのに足が全く言う事をきかなかった。鉛にでもなったかのようにその場に佇み、ぼんやりと桜の木を見上げる。
「――だから言っただろう?君は來ると」
背後から聞こえてきた馴染みある聲に私は振り返らない。否、振り返れなかった。
「そこに跪いて乞うが良い。聴きたいのだろう?私の調べを」
それまで動かなかった足はまるで噓のように動いた。言われた通りに膝を折り、桜の木を見つめたまま息を殺してあの音が奏でられるのを待っている。
「聴かせてやろう、思う存分。今度は立ち去るなどと言えぬように、その魂に刻んでやる」
いつもの位置に、妖琴師が座る。優雅に袖を翻し、見せつけるように琴を構えて。僅かに見えた禦魂の発動に、私は息を飲むしかない。
「ほら、近くに寄れ」
聞いてはならない。行ってはならない。そう思うのに、身體は自然と前に進む。
人を狂わせる音律の持ち主。それに加えて、人を狂わせる効果のある禦魂を混ぜれば、一體どれほどの効果となるだろうか。それを今から味わうのだと思うと、ゾッとした。
「捕まえた」
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